会社のお金でAI展示会に行った話

思考・構造

会社のお金で、AI展示会へ行った。平たく言えば出張だ。

最新技術を学び、会社の未来に役立つ知見を持ち帰る。そう書けば立派である。

実際には、勤務時間中にそれっぽい説明を聞き、無料のノベルティを受け取り、少し賢くなった顔で帰る催しである。

もちろん、私もその一員だった。

会場には、未来が大量に並べられていた。

人の動きを分析するAI。社内文書を探すAI。熟練者の知識を吸い上げるAI。ロボットへ指示を出すAI。

どの説明員も、世界がもうすぐ変わるような口ぶりだった。

私は何度も頷いた。

会社固有の情報をAIに与える。AIの生成物は、人が最後に確認する。

だいたい知っている話だった。

少し安心した。

私は時代に遅れていない。むしろ、それなりに先を走っている。汎用LLMを使い、一次情報を集め、仕事へ落とし込む。

そこらの「ChatGPTで議事録を作りました」という話よりは、だいぶ先にいる。

そう思っていた。

ところが、会場では別の話も繰り返されていた。

PoCがうまくいっても、現場へ浸透するとは限らない。

一部の人がAIを使えても、その人の仕事が速くなるだけで、会社の業績は変わらない。

個人の工夫を、誰でも使えるワークフローへ変えなければならない。

最初は、退屈な話だと思った。

せっかくAI展示会へ来たのに、また「定着」とか「組織変革」とか言っている。そういう話は、AIがなくてもコンサルが昔から話している。

しかし、よく考えてみると、自分で自分を刺しているだけだった。

私はAIで仕事を速くした。

文章を作る。資料を読む。情報を整理する。以前より、かなり速くなった。

では、浮いた時間で何をしたか。

別の仕事をした。

そしてまた忙しそうにしていた。

会社から見れば、仕事の遅かった社員が、少し速く仕事を片づけ、その分だけ別の仕事を抱えるようになっただけである。

売上が増えたわけではない。

納期が縮んだわけでもない。

ほかの人が同じように使える仕組みを作ったわけでもない。

私はAI活用を推進しているつもりで、実際には自分だけ高性能化していた。

一部社員のバージョンアップである。

しかも、その社員は浮いた時間で休むこともなく、また仕事を増やしている。

会社にとって、これほど扱いやすい改善はない。設備投資も不要。人員削減も不要。成果の測定も不要。

本人だけが「生産性が上がった」と満足している。

私は、一次情報を取れれば勝ちだと思っていた。

文書にない知識を拾い、AIへ与えれば、汎用LLMでも十分に戦える。

そこまでは、たぶん間違っていない。

ただ、そのAIで速くなったのが私一人なら、会社にとっては便利な社員が一人増えただけである。

一次情報はゴールではなかった。

材料だった。

それをワークフローにし、ほかの人でも使えるようにし、浮いた時間を会社の課題へ振り向ける。

そこまでやって、ようやく個人の工夫が会社の成果になる。

展示会で一番すごかったAIは何か。

どうでもいい。

最新モデルの名前も、半年後には別の名前に置き換わっているだろう。

ただ、一つだけ持ち帰った。

私は会社を変えていたのではない。

AIを使って、自分だけ仕事の速い人になろうとしていた。

会社のお金で最新AIを見に行き、自分が一人で効率化して満足していた事実を突きつけられる。

ずいぶん費用対効果の悪い話である。

とは言え、本人が自ら気づけたのだから、元は取ったのだろう。

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